イップスって何ですか?
よく、スポーツ選手が苦しんでいると見聞きしますが、一体どんな症状なんですか?
今回は、このようなご質問についてお答えします。
この記事を書いている私は、現在テニス歴20年以上です。これまで、団体戦で全国優勝、JOP大会出場、テニスコーチを経験しています。
【テニス】イップスの発症から克服するまでの実体験【約10年間に及ぶ自分との戦いでした】
まず、イップスの定義です。
イップス (yips) は、精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、突然自分の思い通りのプレー(動き)や意識が出来なくなる症状のことである。本来はゴルフの分野で用いられ始めた言葉だが、現在ではスポーツ全般で使われるようになっている。
引用元:Wikipedia イップス
となっています。
メンタル等が原因で、そのスポーツの経験者が初心者のようになってしまいます。一過性のもの(ex.スランプ)もありますが、イップスは一度なってしまうとなかなか抜け出せないため、スポーツ選手にとってかなり致命的な症状です。
ここから、私自身がイップスを知るまでと発症してから克服するまでの約10年間の死闘を綴っています。
まさか自分が発症するなんて微塵にも思っていませんでしたし、皆さんにも突然起こりうる可能性があります。
また、現在イップスに苦しんでいるという方が読んでくださっている場合もありますので、少しでも克服するきっかけになれたらと思います。
イップスとは?【私が知ったきっかけ】
当時の私は、このようなスポーツの病があることを全く知りませんでした。
ですが、大学4年生の時に、同じチームのメンバー2人がフォアハンドイップスに苦しんでいるシーンを目の当たりにしました。
私が進学した大学は、団体戦で全国優勝歴代最多記録を持っています。そして、その2人はそれぞれ全中優勝とインターハイ優勝経験がありました。
ある日、その内の1人とラリー練習をしている際に、その子の最初の球出しが高過ぎたり短過ぎたりと全く安定せず、ラリー中もあちこちにボールが飛び、2〜3球しか続かなくなりました。
そして、次第に球出しのボールをいきなりネットする状態になり、私には何が起きているのか全くわかりませんでした。
“出来ない”というよりは、”打ち方がわからない”といった方が適切なのかも知れません。
何も知らない私は、“緊張か腕を怪我しているのかな?“と思いましたが、後にコーチから”テニスが出来なくなっている”ことを告げられました。
当時の私には、どういう状況なのか全く理解出来ませんでした。
自分がイップスを発症するきっかけ
それは、部活を引退した後の試合での出来事でした。
JOPの大会で高校生と試合をしていた時に、急にフォアハンドが打てなくなりました。
アウトドアの会場でしたので、調整するために、いつもの2倍くらいの高さのロブを上げてしのいでいましたが、やがてボールがすぐ目の前の地面や何の威力もなくネットにかかるという謎の状態になりました。
自分の思考と身体が一致していない状況です。
私はパニックになり、その時のことはしばらく思い出せませんでしたが、その後冷静に分析してみるといくつかの要因が見付かりました。
- 周りの観客の声(自分に対しての評価)が気になって仕方がなかった。
- 年下には負けたくないと強く思っていた。
- 引退して、練習量がこれまでの1/3くらいになっていた。
という点が挙げられます。
まず、自分で自分自身にプレッシャーをかけて、”勝たなければいけない”という思考になっていました。
そして、練習量が減ったという不安が、メンタルに影響を与えていたと思います。
その日から、テニスが全く楽しくなくなりました。それでも、負けたことが悔しくてがむしゃらに練習しましたが、ついには練習中にも空や地面に向かって打ってしまうようになりました。
打つというより、自分の腕がどこを向いているのかわからない状態になりました。
私はここで、ようやく友人の気持ちが理解出来るようになりました。
しかし、それからテニスの”テ”の字やテレビでテニス関連のニュースを目にすることすら苦痛になり、私は大好きだったテニスが大嫌いになり、ついにラケットを置きました。
イップスを克服したきっかけ
その後、数年間はテニスに向き合うことは全くありませんでした。社会人サークルでテニスの楽しさを思い出しながらも、継続することはありませんでした。
そんな私が克服したきっかけは、テニスコーチになったことでした。
“現場での悩みは現場でしか克服出来ない“そんなことも思っていました。しかし、テニスが出来なくなった自分が、コーチとして成立するのかという不安はありました。
ただ、その時の気持ちとして”自分のためではなく、生徒さんのためにテニスをしよう”そう強く決意していました。
この時点で、以前は自分に集中していた意識が、周りの人に向くようになっていました。
初めは、球出しの動作でイップスが出ることもあり、コーチとして余りにも酷かったので、勇気を持ってそのスクールのコーチ全員に、自分がイップスであることを打ち明けて相談しました。
周りや自分に言い訳をしているようで嫌でしたが、打ち明けたことで不思議と気持ちが軽くなりました。
また、症状が出た時にコーチの皆がサポートしてくれたので、私は安心してテニスに集中することが出来ました。
かっこ悪い自分も全てさらけ出して、周りの方や今までお世話になった方々に恩返しをしようと誓いました。
そして、周りにはイップスになったことがあるコーチがたくさんいて、多くを語らずも私の気持ちを理解してくれていると感じられました。
また、生徒さんの中にもイップスに苦しんでいる方は、たくさんいらっしゃいました。
もし、自分がイップスを経験していなかったら、”もっともっと”と要求することが増え、生徒さんのメンタルを圧迫してしまうコーチになっていたかも知れません。
そのことを考えただけでも、自分が苦しみ続けて良かったと心から思います。
イップスになった要因のまとめ
これは、あくまで私と大学の友人2人に共通していたことです。
- 真面目
- 優しい
- 全員フォアハンドのグリップを変えたことがある
このような共通項があり、様々な要因が複雑に絡み合っていると思います。
ですが、グリップを変えたというのは、特に大きな要因だと感じています。グリップを変えたことによる恩恵は大きかったのですが、子供の頃から身体に覚えさせてきたことを途中で変えることのリスクも大きいのではないかと推測しています。
グリップを変えるということは、打点やラケットの角度、プレースタイルにまで影響を及ぼします。
また、大事な場面で本当に自信を持って打てるようになるまでに、かなりの時間を要します。これらを踏まえて、グリップを変えるという行為は、慎重に自分自身に問いかけて決めた方がいいと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
イップスはある日突然、何の前触れもなく発症してしまう可能性があります。
様々な要因が考えられるため、こうすれば治るとは決して言い切れません。
それでも大切なのは、その方が誰よりも頑張っていることを理解し、そっと寄り添うだけで、ふっと気持ちを楽にしてあげられるものだということです。
また、自分自身の壁はテニス以外のことを通しても乗り越えられるということです。
私は、かなり長い年月を要しましたが、当時自分が抱えていた壁は、巡り巡って他の壁を通していつの間にか克服していたように感じます。
今、イップスに苦しんでいる方もきっと乗り越えられます。
今回の記事が、ささやかながらイップスを知っていただくきっかけや、イップスに苦しんでいる方々のお役に立てたら幸いです。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。